前々回、「Customer Satisfaction(顧客満足)を実現するためには、Employee Satisfaction(社員満足)を追求し続けることなのです」と書きました。
今日は以前(4/7)書いたT社事例の続編から。

「食べ物も偏りがちの食生活を送る人が多いし、会社の食堂で新鮮な野菜をサラダバーで食べ放題にして、私が社員の健康を守るんだ!」と社長が語り、社食のサラダバーは新鮮野菜食べ放題と書きました。
先日、T社の福岡支店長と中洲で食事をしました。
彼も昨年私の研修を受講していただいたのですが、彼とはすでにソウルメイトの感ありです。

「本社はいいねー、きれいで美味しくて安い社員食堂があって、新鮮野菜食べ放題。でも、全国の支店では本社程の人数はいないし、そうはいかないだろうけどね。」
と私が言うと、
「支店は30人ほどしかいないから、社食という訳にはいかないのですがねー。でも、私は支店ではある意味、本社の社食以上だと思いますよ。」
と支店長。

聞いてみると、先代の社長が、
「最近の若い子は、家の手伝いもしないで勉強一筋なんてケースも多いんだよな。花嫁修業なんて言葉は、死語になっているのかも知れないが、結婚して料理もできないんじゃ、結局は本人が苦労するよなー。ウチの女子社員は俺にとっては、娘みたいなものだから、何とかしてやりたい。嫁に貰うならT社の社員にしろ!なんて言われたら嬉しいよな。」


それ以来、全国の支店・営業所では、毎日女性社員が輪番制で全員のお昼ご飯を作るようになり、今も伝統的に続いているそうです。
そして、教え合ったりしながら、彼女たちはどんどん腕を上げていき、毎日例外なく旨い昼ご飯を提供してくれるそうです。
この会社の女性社員は、例外なく料理上手になるとの定説ですから、次回は是非、試食をさせてもらおうと思っています。

勿論、決して嫌がる人に無理をさせているのではなく、全員が納得ずくでやりがいを持って取り組んでいるのです。
まとまった数の料理を作る苦労と、皆からの「ありがとう」「旨いねー」という賞賛の声。
「苦労」と「納得」と「やりがい」は、全くの論理矛盾もなく成立していなければ、上手くいかないのです。
凄いことです。

「お、ウチでもやるかー」と短絡的に真似をしようにも、そこに「思想」「価値観」「愛」がなければ、大失敗するケース多発でしょう。
心の底から社員を愛し、心の底から社員を成長させてやりたいと願う。
上手く利用して効率アップにつなげようとか、コストダウンに利用しようなどという発想は微塵もないのです。
この「思想」「価値観」「愛」を、ずっと持ち続けていただきたいと願います。



【創業者の熱き魂】
また、先日ある他の指導先で、創業者である先代社長(故人)の生い立ちから会社の草創期、そして今やその技術力で世界トップメーカーとなった歴史が書かれた本をいただき、一読で引き込まれ、幾度か読み返しました。

創業者が幼い頃の大正時代の関東大震災など、13歳で丁稚奉公に出されて厳しい時代の荒波に翻弄されながら、18歳で創業したという苦労とチャレンジの歴史が綴られていました。
太平洋戦争時は空襲で焼け野原となり、また貰い火で焼け出されるなど、そこには正に悲運の物語が続いていました。
しかし、徹底的にその匠の技と、苦労を共にしている社員への愛は、特殊技術を大成させていったのでした。

その製品は、いつ見てもとても美しい形と輝きです。
「用即美」という言葉がありますが、つまり「用=極限までその機能性を追求したもの」は、「即美=すなわち、それは必ず美しい形のものになる」という意味です。
いかに実用品でも、とことんその機能を追求していくというのは、技術者がアーティストになったということでもあるのです。


本の中には、顧客との関係、商社や取引業者との関係、とんでもないような生産設備の先行投資や、アメリカのメーカーとの提携や工場の海外進出など、激動の昭和が目まぐるしく場面を展開していきます。
ここではそれらを詳説する訳にはいきませんが、私は何度も読み返しながら必ず立ち止まり、長い時間考えに考えていたことがあります。

それは、亡くなる数年前に現社長に「社長の座」を譲った時のこと。
新社長には「お前の好きなようにやればいい」の一言、それ以外に一切何も注文もなし。
自分も創業から自分の思うように突っ走ってきたから、それは「次の代の足かせになるような言葉は残さない」ということであろうと思います。

しかし、私には前後の行間から、「強いメッセージ」が聞こえてくる気がして、何度も立ち止まりながら考えました。


『時代は変化を続けるから、不易流行こそ肝要。
今日までの成功要因をすべて継承することは無駄であり、かえってリスクを生じかねない。
今ここで見えない未来予測をしてもナンセンスだから、守ってほしいのは「不易流行」の根幹である経営哲学。
「流行」=「変わりゆくもの」は肌で感じ取り、社員たちと議論を重ね、必死になって考え抜いて、絶対的タイミングに「変えてゆく勇気」を持たなければならない。
しかし、その上には圧倒的絶対的条件の「不易」というものが、仁王の如く立ち塞がっていることを忘れてはならない。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」といわれる。
それは、ここに至るまでの「歴史」、幹部や社員たちへの「愛」「想い」「共感性」、その「価値観」だけは何があろうとも守り通せということだ。

「私心」を捨てることは、並大抵ではできない。
だからこそ、常に「私心」に惑うことなく、「この会社は何を大切にしてきたか」「社員が何百人・何千人になろうとも、皆が心一つになること」こそ、明日のためのエネルギーだ。
上に立つ者が、上に立っておられるのは、社員の人たちが「嫌そうに」でも「苦しそうに」でもなく、「嬉しそうに支えてくれる」からだ。
私が何も言わないのは、ただ一点これだけを守り通して、この会社に永遠の命を与え続けてほしいからだ。』

上記のことは、あくまでも私が行間から読んだものであり、勝手な創作でもありますが、この思想を感じ取れる逸話がこの本にはたくさん出てくるのです。
例えば、社員が小指を機械に挟まれた際の、医者から「指を切断するしかない、諦めろ」と言われた時、社員の小指の切断を何とかすると言い、車を走らせて他の病院を巡り、何とか指を残すことができたこと。

指を失ったか残せたかで、後々にこの社員のQOL(クオリティ オブ ライフ)は大きく左右されたでしょう。
「医者が言うから仕方ない」と諦めるのが、実際にはごく普通ではないでしょうか。
愛すべき社員のために、0.1%の望みでも死力を尽くすという、社員の幸せのための「ストロング・ウイル」の為せる業でしょう。

また、かなりのムリをして、そのマシン生産では世界最大となる工場を作った際にも、流石に資金繰りも大変な中、社員食堂の入る厚生棟を建てました。
幹部の大半から「厳しい予算の中なので、空調設備は我慢しましょう」との意見が出た時、皆が反対する中で「食事ぐらいゆっくりと環境の良い場所で食べさせてあげたいから、絶対に空調は必要だ!」と譲らなかったそうです。

しかも、それだけではなく、食後の運動や余暇のためにと、全天候型テニスコート・野球のグラウンド・ゴルフのグリーンまでが作られていきました。
その時点で54,000平米、後にはその2倍ほどの敷地になる名実ともに世界一の工場となっていきました。

毛利元就の三本の矢(実話でなく、創作らしいのですが、いい話はいい!)の話に例えて、我が子や幹部や社員が心一つに大切なものを守り通してほしいという願いを、生前何度もおっしゃっていたそうです。
人々を本当に結束していくのは、「価値観」の共有しかないのです。

その「創業者の魂」は、私にとても大きな共感と使命感を与えてくれました。

先日、何とかスケジュールをやり繰りして、都内の創業者ご夫婦が眠る墓所にご挨拶に伺ってきました。
もう亡くなってから二十年以上が経つのですが、ちょうど御命日の一週間前でした。

高級線香には「白檀(びゃくだん)」や「沈香(じんこう)」というのがあります。
「沈香」の中でも最高峰と言われる「伽羅(きゃら)」を上げることが、故人には最高のご馳走を差し上げることになると、以前聞いたことがあります。
「必ずもっともっといい会社になりますから、天から見守ってあげて下さい」と祈りを捧げながら、世界一の技術を創った先代に敬意を表して、世界一のお線香「伽羅」を上げさせていただきました。

かなり長時間お墓の前にいて、何故かまた近いうちに来たいと強く思いました。
一度もお会いしたことのない創業者から、本を通して大変多くのことを学ばせていただきました。
久しぶりに良い本を読ませて頂き、清々しい気持ちになりました。

2014.5.28.
 株式会社 ビジネススキル研究所 代表取締役 鶴田 慎一  拝
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