いよいよロンドン・オリンピックも大詰めを迎えています。

参加したアスリートたちの誰もが、死ぬほど辛い練習に耐えぬいて迎えた本番、「下馬評通りの金メダル」という選手もいれば、「まさかの敗退に涙する」選手も、「メダルには届かなくても、期待以上の結果に大満足」の選手もいます。

その筋書きのないドラマに、私たちは感動・感銘を覚えたり、まるで自分のことのように悔しがったりもします。

また4年に一度というオリンピックに、選手としてのピークで臨める人もいれば、ピークアウトして全盛時の力が出せない人もいます。

ここには「運・不運」も付きまといますが、とにかく必死に最高のパフォーマンスを求め続ける姿が多くの共感を集めるのですね。


先日ある顧問先の企業で大きなイベントがありました。

今期の業績どころか今後の会社の盛衰が掛かった重要なイベントですから、かなり前から徹底的に「社員の価値観を束ねること」「それぞれのミッションを再度明確にすること」「これ以上の具体策は考えられないというレベルのアクション・プログラムを策定すること」に腐心してきました。

そしてこの機会に、幹部にストロング・マネジメント・スタイル(以前書きましたので、バックナンバーをご参照ください)を確立させていきたいとの狙いもあったため、私自身も強い思い入れをもって取り組んでいました。


イベントの成果そのものは想定したものに近かったのですが、「これまで通りという慣習は排除して、何から何までやるべきことはやり尽くす」と決めていたアクション・プログラムに、ある幹部が知らない間に「これまで通り」にしてしまっていたことが判りました。

彼の判断は、「とは言っても、俺は苦手だから」「これ位のことは大勢に影響がないだろう」というものでした。

あまり大きな声を出す方ではない私ですが、この時ばかりは激怒してしまいました。

そうです、いつも申し上げている通り、そこには「上司としての価値観」の欠落が感じられ、そのことが大勢に影響を与えるからなのです。

会社の存続を賭けた戦いに際しても、上司がレベルの低い価値観を示してしまえば、部下たちの価値観レベルを向上させることはできないのです。

上司が部下たちを指導するということは、まず「自分の生き様を見せていくこと」、その生き様に「共感・共鳴・納得させていくこと」です。

だからこそ、上司は自分の生きていく姿勢を確立しなければならないのです。


オリンピックでも、あらゆる選手に「コーチ」(COACH)が付いています。

人材開発技法の一つとして、コーチングは数年来良く使われる言葉ですが、「コーチ」とは馬車を意味し、馬車が人や物を目的地に運ぶというところから転じて、「コーチングを受ける人」を「目標達成に導く人」を指すようになりました。

たった一度の勝負にベスト・パフォーマンスを出させるために、コーチは選手と共に「コンディション」や「モチベーション」を高めて、「最も効果的な戦い方」「最も確率の高い勝ち方」を考え抜いて作戦を立てるのです。

「絶対に諦めない心」で勝負する時に、「今まで通りでいいや」とか「こんな程度でいいか」とはならないのは、「スポーツ」も「仕事」も同じなのです。


前述の幹部に怒鳴ってしまった私は、「まだまだ修行が足りないな」と大変に後味が悪い気分でした。

半年以上の時間をかけて、「どうすれば目標達成というゴールにたどり着けるのか」というファシリテーション(Facilitation)を続けるのと同時並行で、幹部をファシリテーター(Facilitator・促進者)に育てていこうとやってきたのに、、、という強い憤りを感じていました。

「人は人によって変えられることはない、自分の意思決定のみでしか変わらない」ということが大原則ですが、猶予の限界は近かったのです。


ファシリテーターは何某かの「答」を出すのではなく、「答」に辿り着くための「道筋」を示していかなければなりません。

言い換えれば、「対応策」という「答」を本人が決意することができるまで、「対応力」「思考力」の促進をしなければならないのです。

「本人に与えられる猶予の限界」と「本人が腹落ちして、前向きな変革を起こすか」という非常に微妙なバランスですが、これがファシリテーターとしての使命です。

特に私の場合は、「ファシリテーターを育てるファシリテーター」ですから、はっきり言ってこれは非常に疲れるけど、その組織にとっては将来が掛かっている重大テーマなのです。


お読みいただいている皆さんの中にも、自分の立場がファシリテーターにあたるとお考えの方も多いでしょう。

会議やミーティング等の場でコンテンツ(議論の内容)に対して公平な立場に立ち、発言や参加を促したり話の流れを整理して、参加者の認識の一致を確認するという前向きな介入をする。

合意形成や相互理解をサポートすることで、組織や参加者の活性化・協働を促進させるファシリテーターには、ファシリテーション技術もさることながら、組織・参加者に対して良心に基づいた「目標達成への情熱と信念」を強烈に訴え続けていくという必要があります。

人の上に立つ者の宿命ですから、我々は部下に「自らの情熱と信念」に気づいてもらい、その「気づき」を「自己変革」につなげられるように、「絶対に諦めない心」で取り組んでいかなければならないのです。


2012.8.11.  ビジネススキル研究所  鶴田 慎一  拝