【クライシス・マネジメント(危機管理)】
クライシスは、「事業活動の継続、企業の存続が危ぶまれる非常事態」であり「通常ではありえない大事」、もう少し拡げて解釈すれば「事業活動が順調に進まなくなる出来事」「予定していることが予定通りにいかなくなる事態」もスモール・クライシスです。
事業計画や生産計画が全て順調に運ぶことが前提で組まれていると、スモール・クライシスにも機敏な危機対応ができずに、結果として大きなマイナス要因を生むこともしばしば起きてしまいます。
例えば、予防的措置が難しいクライシスは、過去には東日本大震災、原発事故、アメリカではハリケーン・カトリーナ、9.11のテロ、戦争など様々で、今後高い確率で起きると言われている首都直下型地震、東南海地震、富士山大噴火など、これからもクライシスに襲われることは絶え間なく起こるものでしょう。
「そんなのに襲われたらどうにもならんから、俺は諦める」と諦めのいい方もいらっしゃいますが、クライシスに対する「具体的行動計画をとことん諦めの悪いスタンスで策定する」ことが大切なのです。
クライシス・マネジメント(危機管理)には、「心情的には想定外にしたいこと」を「きっちりと想定内に置く努力」が必要なのです。
また、例えば、
「経済のグローバル化・ボーダレス化による為替などの変動」や、「価格競争の激化」「技術革新による現有競争力の陳腐化」「幹部や中核的役割を担う社員の退職」なども、「心情的には想定外にしたいこと」でしょう。
組織において、クライシス・マネジメント(危機管理)が重要なのは言うまでもなく、それを具体的に「クライシス・マネジメント・プラン」であり「危機的事態への対応アクション・プログラム」という行動計画にしなければ、「いざの時に機能させられない」「役に立たない」ものになります。
指揮命令や意志決定メカニズムと優先順位、対応プロセスのシミュレーション、内部コミュニケーション手段、ロジスティクスの確保など、想定テーマはたくさんあります。
実に多くの「悲観的準備事項」が並びますから、一つ一つのテーマにプロフェッショナリズムを盛り込む必要があるのです。
【首都高火災:ハインリッヒの法則】
先日指導先のK社にて、火災時のクライシス・マネジメントについて、工場内の消火器の配置や、消火器の種類・能力、初動などについて意見を交わしておりました。
当然この会社には、火災時のクライシス・マニュアルはありますが、昨年起きた塗装ラインでのボヤ騒ぎの話を蒸し返して、もっと踏み込んで検証して今後の対策をレベルアップしたいということでした。
もう一度考えようという切っ掛けとなったのは、皆さんの記憶にも新しい先日の首都高の塗装現場での火災。
「可燃性塗料が照明の電球に落ちて発火した」というのが原因ということでした。
可燃性の塗料を使用しての塗装工事の現場で、発火装置ともなり得る発熱性の電球で照らしていたという事実。
ハインリッヒの法則の1:29:300、1つの重大事故の裏には29の小さなトラブル、300のヒヤリハットが隠れているということから、今回の火災に至るまでには何回も「煙が出た」とか「焦げていた」ということは起きているはず。
これまでは大丈夫だったとしても、それはただ単に運が良かったということでしょう。
あらゆる現場には、このようなリスク要因がたくさんあります。
だからこその再検討・再想定なのです。
【火災第一発見者体験】
私は20歳の頃、先輩のマンションで深夜の火災に遭遇して、友人たちと「非常ベル」「消防に通報」「警察に通報」「周辺の消火器を集める」「初期消火を行う」など、役割を決めて走り回ったのを鮮明に覚えています。
私は、とにかく非常ベルのスイッチを押してから、必死で大声を出しながら、各フロアの部屋のドアを蹴飛ばして住人を叩き起こし、火元の初期消火に向かいました。
残念ながら、燃え盛る炎にはとても近づくことはできず、消火剤は全く火元に届かず、火の勢いは増す一方でした。
結局消し止められずに、周囲の数件が全焼してしまうという惨事で、虚しい消火作業となってしまいました。
確かほとんどの人が寝静まっている夜中の3時過ぎの出来事でしたから、死者・負傷者が出なくて済んだことだけが救いでしたが、鎮火までの数時間の間、延々と燃え続ける現場に立ちつくし、無力感に襲われたのを覚えています。
後日、警察から呼び出しがあって、皆を代表してM先輩が行くことになり、
「俺ら、人命救助で貢献したからさー、警察に呼ばれたよ。俺が代表して感謝状を受け取ってくるから!」
と、先輩は意気揚々と警察へ。
数時間後、彼はうなだれて帰ってきて、
「感謝状どころじゃネーよ。あれはどうも不審火だったらしくて、第一発見者は第一被疑者だっていうことでさー。取調べだったよ。あー、こんなことなら、お前に行かせるんだったよ。もう、信じらんねー。」
まぁ、我々は間違いなく無実でしたから、私は
「先輩!そんなことなら私が行きましたのに、一人だけ辛い想いをさせてしまい申し訳ありませんでした。」
と、心にもない慰めの言葉。
【適材発掘・適所配置】
さて、話は先ほどの指導先K社に戻りますが、その塗装ラインでのボヤ騒ぎの顛末について再確認をしていて、そんな中そのライン近くの担当だったYさんの説得力ある意見に納得。
彼は地元の消防団にも入っていて、さすがに現役の消火のプロ。
常日頃から消防団員としてのプロフェッショナリズムと誇りを持っていて、火災発生時点の初期消火に同僚が手こずっているところに、少し離れた現場から駆けつけて、消火能力の高い大型の消火器を迷いなく引っ張っていき、見事に消し止めました。
ヒーローです。
ここでは火災原因や消火活動の詳細は省きますが、彼の頭には現場の装置レイアウトや機材の位置・形状、延焼を防ぐための消火の勘所が全て頭に入っていて、とにかくそのピンポイントで消さなければ、消防車でなければ対応できない事態になるとの判断があり、一点集中で延焼を食い止めて大惨事になるのを未然に防いだということです。
初期消火の考え方や消火器の扱い方、消火器の設置場所のみならずレバーの角度などの消火器の置き方、キャスター付きの消火器の動作環境の設定など、会議の後にもこと細かく聞きました。
「そうだ!Y君、社内消防団を結成して、団長になれ!俺が社長に推薦しておくから、各部門から人選して、定期的に訓練と勉強会の先生もやれよ。」
「先生、俺そんなに人に教えるほど頭良くないっすよ。だから、体動かして消しに行く方をやってんだから。」
「さっき聞いた話は、社員のほとんどが知らないレベルだぞ。皆でレベルアップしていけば、クライシス・マネジメントの大きな具体策の一つになれるし、近隣地域への社会貢献にもなるぞ。」
彼は自分で「頭悪い」なんて言いながら、実に素晴らしい能力を持っています。
彼はつい先日、転勤で他の部署に移ったのですが、行ってみると彼の配属先のバックヤード周辺が見違えるほど整理整頓されていました。
ただ単に片付けるのではなく、意識・無意識のクライシス・マネジメントを踏まえて、様々なリスク想定の現場改善に取り組むという「努力する能力」を持っています。
適材発掘です。
「得意なこと」「好きなこと」には、「努力する能力」は更に磨かれていきますから、更に適所配置を進めて、より活躍できるステージを与えてやりたいと思います。
2014.3.31.
株式会社 ビジネススキル研究所 代表取締役 鶴田 慎一 拝
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