「是非、次回にでもご紹介したいと思います。」と前回書いたお奨めの一冊、㈱アドフィットの加盟企業S社のF常務から頂き、その夜一気読みした本。
それは7月4日に出版された、高橋佳子さん著「彼の地へ~3.11からのメッセージ~」(三宝出版)です。
震災直後から一年が過ぎ、そして間もなく一年半となろうとしている今、もう一度しっかりとこの事実と向き合い、私たちが「目指す国」「到達したい境地」「創り上げたい社会」を考えようというものです。
この本を下さったS社のF常務ご自身も被災者のお一人で、お母様が津波に流されてなかなか見つからずに苦悶し、また宮古では営業所が流され、社員にも犠牲者が出ています。
この本は多くの詩と写真で構成されていて、その一つ一つが私たちの「価値観への問い掛け」を感じます。
「目指す国」「到達したい境地」「創り上げたい社会」 --- どうすればいいのかを考える時、現代人は「ノウハウ・ハウツー」に頼ろうとします。
全否定はしないまでも、どんな価値観でどんな思考回路を巡らせ、どんな言葉とどんな行動で、その「彼の地」へ向かうのかが『未来への道筋』を創るのだと思います。
福島の三春町の咲き乱れた枝垂れ桜の写真に添えられた一篇をご紹介しますので、後は是非とも本を手にしてください。
他も素晴らしい詩ばかりです。
【 今だけではなく 十年後を考えよ。
明日だけではなく 百年後を想え。
一時なら 嘘で欺くこともできる。
一時なら 金で味方も増えるだろう。
一時なら 力にまかせて好きにできる。
一時なら 悪政だって栄えるだろう。
しかし 長くは続かない。
永遠の流れに 残るものはない。
時は厳正に 真価を質(ただ)すのだ。
目の前の一瞬を 人は生きる。
でもそれは 永遠の一部である。 】
ところで皆さんもそうでしょうが、毎年この時期を迎える度に「終戦記念日」=「太平洋戦争終結」の報道が多くなり、1945年8月15日正午のラジオから流れた昭和天皇の肉声が象徴的で、悲惨な戦争の悪夢が想起されると共に、歴史的過ちへの悔恨の情が湧いてきます。
あの悲惨な敗戦から67年が経っても尚、未だ悲しい想いを甦らせている方もまだまだ多くいます。
今後も時を刻み、全ての日本人が戦後生まれという時代が来ますが、「二度と起こしても、巻き込まれてもいけないのが戦争」だということを、深く永く後世に伝えていかなければならないと思います。
1945年7月26日、ポツダム宣言が発表され、日本は一旦これを「黙殺する」と声明、ソ連に対して和平斡旋を依頼しました。
ところが海外では、「黙殺」は「無視」と訳されて報道、ついに米軍は8月6日広島・9日長崎に原爆を投下しました。
「無言のままで取り合わないこと」が黙殺ですが、「問題にせず無視すること」とも取られる訳ですから、我々の日常のコミュニケーションも≪大事なことこそ100%の伝え方≫をしなければなりませんね。
和平斡旋を頼んだはずのソ連は8月8日深夜に突如、日ソ不可侵条約(日ソ中立条約)を破って「日本がポツダム宣言を拒否したため連合国の参戦要請を受けた」として宣戦を布告、9日午前零時をもって戦闘を開始、南樺太・千島列島および満州国・朝鮮半島北部等へ侵攻したのです。
8月15日に、日本が無条件降伏を受け入れたのにもかかわらず、ソ連軍は侵攻を続けて、8月28日から9月5日にかけて北方領土に上陸し、占領しました。
皆様ご存知の通り、現在に至るまでソ連から継承したロシアが、択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の島々、すなわち北方領土の実効支配を継続しています。
竹島問題と言い、北方領土と言い、これらの領土問題は日本が永年に亘り返還を求めているにも関わらず解決していません。
このままでは、尖閣諸島も中国が上陸作戦(漁船に見せかけて)を展開して、実効支配を狙うというのも十分あり得ることなのです。
Independent Country<独立国>とは、国際法上の能力を有する完全主権国家ですから、1日も早く本来の領土を確定・実効支配して、「本当の意味での戦後」にしなければならないと思います。
シリア問題では、国連安全保障理事会(安保理)で「国連シリア監視団(UNSMIS)の任期延長に関する欧米理事国提出の決議案」を採決しましたが、ロシアと中国が拒否権を行使して否決されました。
決議案採択から10日以内に、アサド政権が重火器の使用を停止し、都市部から軍を撤退させない場合には、同政権に制裁を科す内容も盛り込んでいたのですが、「国連憲章7章に基づく制裁は軍事行動に道を開きかねない」として中・露が拒否権を発動したのです。
国連安保理常任理事国の特権である「拒否権を発動」の中・露の本音は、武器輸出先であるシリア及びアサド政権を守ったということなのではないでしょうか。
国家・政府が国民を虐殺しているという異常事態のシリア情勢ですが、国際社会が一致した対応を取れないという安保理の機能不全がまたも露呈しました。
シリア情勢は一層混迷を深め、ひいては世界経済にもマイナス影響を及ぼすことになりそうです。
安全保障理事会は、実質的に国連主要機関の中で最大の権限を持っており、事実上・法的に国連加盟国を拘束する権限がある最高意思決定機関とも言われます。
国連憲章に定められている目的や権限は、「世界の平和と安全の維持に対して重大な責任を持つ」つまり「世界平和を守る主役」と規定され、常任理事国は第二次世界大戦に勝利した連合国の大国(米国・英国・ソ連→ロシア・中華民国→中国・フランス)であるとされています。
安保理は15の理事国で構成され、前述の米国・英国・ロシア・中国・フランスの5ヶ国が常任理事国で、その他の非常任理事国は地理的代表の原則に基づいて、2年の任期で選ばれ、我国も選ばれ続けています。
国連総会と違って、安保理は定期会合がない代わりに、いつでも招集することができるように、理事国は国連大使を常駐させるという義務を負っています。
1945年の大戦終結と共に生まれた国際連合には、国連憲章に未だ「敵国条項」を残しています。
日本は永年の間、「敵国である」と国連憲章に明記されたまま、世界トップクラスの負担金を拠出し続けています。
今では敵国の全てが国連に加盟し、国連憲章制定時とは大きく状況が変化し、事実上死文化した条項だと考えられている向きもありますが、明文化されているものは「黙殺」ではなく「削除」でなければ駄目です。
1995年に国連総会において、日本やドイツなどが「敵国条項を削除する決議案」が賛成多数によって採択されたのですが、「削除(Deletion)」に向けて作業を開始することは決議されたものの、批准手続きの複雑さで未だ実現していません。
戦後67年経って如実になっている国連安保理の機能不全は、未だ「戦勝国」と「戦敗国」の論理で運営していることの弊害なのではないでしょうか。
本当の意味での「世界全体最適」を、「正義」を持って推進する国連にしていかなければなりません。
国連憲章は国際条約の一つですから、採択が発効し正式改正されるためには、憲章108条の規定により、総会の構成国の3分の2の多数で採択、且つ、安全保障理事会の全常任理事国を含む国連加盟国の3分の2によって批准されることが必要です。
詳細な批准手続きは各国で異なる上に、通常は「批准には政府による最終確認と同意過程を経た上で、これを議会が承認する」といった状況から、採択を批准した国は効力発生に必要な数には及ばず、敵国条項は依然として憲章に残っているのです。
日本の政治の悪癖、「今は別に大きな問題もないから、とりあえず先送り」というのは、ここにもまた存在しています。
明治維新の志士たちのように、とはいかないでしょうが、日本に特に政治・行政そして企業の中に、もっと多くの「国士(こくし)」が必要です。
「国士」すなわち「憂国の士」、我が身をかえりみず国を想い、国家の将来を本気で考えている人物です。
簡単なことではないけれど、「憂国の士」に近づいていきたいと思えば、思想はレベルを上げ着実に歩を進めることになるのではないでしょうか。
まずは、「戦争」「大災害」「大事件」などの記憶を消さずに、私たちが「目指す国」「到達したい境地」「創り上げたい社会」について、たまにはじっくりと考えてみませんか?
2012.7.30. ビジネススキル研究所 鶴田 慎一 拝